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研究内容
緑内障  網膜・メディカル網膜・先天網膜  角膜・ドライアイ  ぶどう膜  神経・腫瘍・斜視
(3)緑内障
緑内障と眼内循環

 緑内障は視神経が障害されることにより視野の障害をきたす疾患であり、国内において、失明原因第1位となっています。日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査では40歳以上の緑内障有病率はおよそ20人に1人と非常に高く、私たちに身近な疾患であることが示されました。進行の主因として眼圧と呼ばれる眼球内の圧が言われており、点眼薬による眼圧下降が現在の治療第一選択となっています。点眼薬の進歩によりかなり良好な眼圧コントロールが得られることができるようになってきましたが、眼圧下降だけでは緑内障の進行を十分に止められない例も多くみられます。
 眼圧以外に、緑内障の病態にかかわる因子として、眼血流の低下が言われています。これまでの研究で緑内障性視神経症では眼血流の低下すること知られていましたが、眼血流の評価は難しく、臨床上の使用において緑内障の経過観察に有効である機器はありませんでした。
 
しかし近年、簡便に測定ができて侵襲のない、レーザースペックルフローグラフィーという血流解析装置が開発されました。流体にレーザー光を当てることで生じる散乱現象を数値化することで眼底の血流量の評価を可能にしています。1回の測定が4秒ほどで、侵襲もないため、臨床上、緑内障の経過観察に有効と考えられます。東北大学では、早期よりこの器械を導入し、病状の把握や治療効果を眼圧だけではなく血流という点からも評価し、得られた知見をいくつかの学会で、報告してきました。
 
緑内障はその病態にわからないことが多く残されていますが、私たちはこうした研究や取り組みにより少しでも緑内障という疾患を明らかにして、一人ひとり患者様の病態に応じた治療法を考えていきたいと思っています。

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Fig1 レーザースペックルフローグラフィー
Fig2 眼底写真
Fig3 カラーコードマップ

Fig4 解析画面

 

Fig1 

 

Fig2,3,4 

C:\Users\絶品です\Desktop\0003304974_20101109_162409_無散瞳眼底_L_01.jpgC:\Users\Yukihiro Shiga\Desktop\LSFG photo\LSFG1.jpgC:\Users\Yukihiro Shiga\Desktop\LSFG photo\LSFG3.jpg
 
緑内障と脳

 私たちが物を見る際、網膜に映った情報が電気信号となって視神経を伝わり、脳まで伝達されています。それによって、私たちは物を見ることができるわけです。緑内障は緑内障性視神経症と定義され、視神経と視野に特徴的変化を認める眼の疾患ですが、眼だけではなく脳にも変化が起きているという報告もあります。
 
ヒトの脳を核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:MRI)を用いて撮影し、脳を画像化して、どのような変化があるのかを調べることができます。MRIの撮影方法には何種類かありますが、眼の網膜の神経節細胞から伝わる神経線維の束を評価できる方法があります。近年開発された拡散テンソル画像(DTI:diffusion tensor image)は組織内の水分子の微小運動、拡散の方向性により、神経線維の中の水分子の動きをとらえ、神経線維束を画像化することができ、これにより、神経線維束の描出、定量が可能となりました。脳の中でも視覚に関係する外側膝状体や視放線の部位の萎縮の程度と緑内障の視野障害の程度が関連するとの報告があります。私たちは、実験動物のモデルを用いて、脳の画像や脳自体の変化を調べ、緑内障の病態において何が起きているのか、薬剤を投与することによりそれを抑制・改善させることはできないかなど検討しています。
 これらの研究により、現在唯一の治療とされている眼圧下降だけではなく、新たな治療法・治療薬の開発にもつなげられればと考えています。

図1 視経路
図2 MRI T2強調画像(正常)
図3 MRI DTI画像(正常)
図4 神経線維の方向性をカラーで表示
(線維の色と走行方向により線維の色を分けている。前後:緑 、左右:赤 、上下:青 )

 

図1 

図2 

 

図3

 
図4
 
 
カルパインと神経保護

 私たちは、緑内障などで生じる網膜神経節細胞(RGC)死の抑制を目指した新規治療薬の開発、つまり神経保護を目標とした研究を進めています。緑内障は現在眼圧を低下させる治療のみが行われ、優れた眼圧降下薬の開発により眼圧コントロール自体は良好な成果を挙げています。しかし、その一方で失明者は増加の一途をたどり、神経保護治療のような眼圧に依存しない新しいアプローチが必要とされています。私たちは、この治療法が確立されれば、これまでの緑内障治療法にブレークスルーをもたらすことができると考えています。
 具体的には以下の2点を目標とした研究を行っています。
(1)緑内障における新たな病態モデルの構築
 
緑内障において軸索流低下が病態に関係すると考えられていることから、私たちは視神経に物理的損傷(切断や挫滅)を加えずに、薬剤を用いた軸索流障害モデルを作成しました(図1)。軸索障害の誘導には抗がん剤の一種で、チューブリン崩壊活性を持つビンブラスチンを用いました。ビンブラスチンを視神経周囲に留置すると軸索輸送が低下し、二次的なRGC死が誘導されることが異なる蛍光色素を用いた二重染色で明らかになりました。このモデルにより、一部緑内障の病態である軸索障害や軸索流障害に続発する細胞死の機序を解明できると考えています。
 
 図1.ビンブラスチンを用いた軸索流障害モデル

(2)神経保護を目指した新規治療薬の開発(創薬)
 私たちはRGC死を引き起こす因子の一つとしてカルパインに着目して研究を行っています。カルパインはCa2+ で活性化されるシステインプロテアーゼであり、過剰に活性化されると細胞死を誘導します。既にアルツハイマー病などの神経変性疾患ではカルパインとその病態への関与が多数報告されており、私たちは緑内障で生じるRGC死にもカルパインが関与していることを確認しています。このような背景から私たちはカルパイン阻害薬が神経保護治療薬の一つになり得ると考えています。実際に前述の軸索流障害モデルでもカルパイン阻害薬は神経保護効果を示すことを実証しています(図2)。このことから今後、別のモデルにおいてもカルパイン阻害薬の神経保護効果が期待されます。
 
図2.軸索流障害モデルにおけるカルパイン阻害薬の神経保護効果 
 

酸化ストレスと眼疾患

 
 活性酸素は生体内のDNAやタンパク質、脂質等を直接作用して障害を与えるため、老化、虚血性心疾患、脳卒中、腎臓病、癌など様々な疾患の素因となっていると考えられています。眼球は紫外線に暴露されているため、酸化ストレスは白内障、緑内障、加齢黄斑変性症、ドライアイなどの様々な眼疾患との関連が示唆されています。
 緑内障は40歳以上の成人の5%が発症し中途失明原因1位の疾患で、 乳頭陥凹拡大、それに続発する網膜神経節細胞の細胞死が主症状となっています。
網膜は酸化ストレスがかかりやすい環境 にあり、神経細胞死の病態に酸化ストレスは関与すると考えられています(図1)。
 酸化ストレスに対する生体防御の1つにKeap1-Nrf2システムが重要であることが様々な研究で報告されています(図2)。Nrf2は酸化ストレスに応答し、生体防御機構を担う様々な酵素やタンパク質の遺伝子発現を統一的に制御する転写因子です。現在、酸化ストレス防御機構において中心的な役割を担うNrf2の網膜における役割は不明な点が多くあります。
 そこで私達はkeap1/Nrf2制御に注目し、網膜神経節細胞(RGC)障害におけるNrf2の役割を研究しています。これまでに軸索障害時にNrf2は抗酸化・解毒酵素の発現増加を伴うことや軸索障害に対しNrf2 KOマウス(図3, 東北大学医化学分野より譲渡)はWild typeマウスと比べ脆弱であることを示しています。
 今後、酸化ストレスに対する分子メカニズムを明らかにし、酸素ストレスを抑制することは緑内障神経保護治療に有用であると考えています。  
 
低酸素と網膜症

 低酸素シグナルは様々な疾患の病態に関与していると言われています。低酸素シグナルは低酸素環境に適応するために活性化されますが、病的な状態においては血管新生や炎症、細胞死を促進し組織障害を引き起こします。眼疾患では糖尿病網膜症や加齢黄斑変性でこれらの病態が重要であり、低酸素下で産生される血管内皮増殖因子(VEGF)をターゲットとした抗VEGF抗体の硝子体注射が臨床的に応用され一定の効果を示しています。しかし依然としてこれらの疾患は難治性であり新たな治療のターゲットが必要であると考え研究をしています。
 具体的にはprolyl hydroxylase(PHD)という外界の酸素状態を感知する低酸素応答の律速酵素に着目しました。前述のVEGFは低酸素誘導因子(HIF)によって転写が促進されますが、PHDはこのHIFを蛋白レベルで制御することが知られています(図1)。
眼疾患におけるPHDの役割を解明し、創薬につなげるためにIn vivoではマウス糖尿病モデル、脈絡膜新生血管モデルを用いています。糖尿網膜症の初期では網膜神経節細胞(RGC)が減少することが知られており、マウス糖尿病モデルにおけるRGC死(図2)を抑制する網膜神経保護治療も模索しています。In vitroではマウスマクロファージ(図3)やアストロサイトなどの初代培養を作製し、低酸素培養などで障害を誘導し細胞反応を解析しています。
 これらの研究により糖尿病網膜症や加齢黄斑変性の新たな治療を開発し、失明の減少に貢献できれば幸いであると考えています。
 
図1 PHD-HIF経路

図2 糖尿病マウスにおけるRGC死 

図3 マウスマクロファージ初代培養

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