近くの眼科で「翼状片」と言われましたが、どのような病気なのでしょうか?
これは線維芽細胞と呼ばれる、結膜(白目)の新陳代謝に必要な細胞が異常に増殖して結膜と角膜(黒目)に侵入してくる病気です。初期には黒目が充血してみえる(結膜に血管が多いため)のみですが、進行してくると翼状片組織により角膜が引っ張られるために乱視が出現し、眼鏡でも矯正が難しくなります(図を参照)。
図 翼状片 |
治療法にはどのようなものがあるのでしょうか?
点眼・内服では進行を抑えることは困難で、根治のためには手術により翼状片組織を除去する必要があります。
手術はいつ頃すればよいのでしょうか?
翼状片が角膜に入り込んでいる長さが角膜の半径の1/4以内であれば乱視が生じることは非常に少ないため、この場合は経過観察となります。一方翼状片が角膜の中央にまで及んでしまうと著しい視力低下をきたしてしまいます。したがって翼状片の先端が角膜の半径の1/2位になったら手術適応と考えられます。
入院はどれ位必要なのでしょうか?
現段階では手術の前の日に入院していただいて、手術の翌々日に退院(3泊4日)という形をとっておりますが、将来的に日帰り手術となる予定です。
手術はどのような方法で行うのでしょうか?
翼状片は単純に取っただけ(単純切除術)では、非常に高い確率(3ヶ月以内に50%以上)で再発します。
そのため初回手術では翼状片を取ったあと、その部分にある病的な結膜組織を全て除去し、その上に周囲の健康な結膜を被せる(有茎弁結膜移植術)方法をとります。更に術中に病的な部分に増殖抑制剤(マイトマイシンC)を塗布する方法や、術後に病的な部分に放射線を照射する方法があります。
再発を繰り返す例や、角膜中央にまで翼状片が及んでいるような例では、切除範囲が大きくなるため、有茎弁結膜移植術の代わりに羊膜(胎盤の構成成分の一部)移植術を行います。更に角膜の欠損が大きくなった場合、角膜上皮形成術(角膜移植術の一種)を加えることもあります。
友達が「春季カタル」と言われて治療を受けているそうですが、アレルギー性結膜炎とどう違うのでしょうか?
春季カタルは「眼瞼(まぶた)結膜の乳頭増殖・輪部結膜(黒目との境目に近い白目の部分)の膠様増殖等の増殖性変化を伴うアレルギー性結膜疾患」と定義されています。つまり、アレルギー性結膜炎の中でも特に重症なタイプ、と考えてよいでしょう。
スギ花粉が原因なのですか?
スギ花粉のみが原因というわけではありません。抗原物質を調べた研究では、60%がハウスダスト(ダニやチリ)であり、動物の毛が25%、スギなどの花粉が10~20%、真菌(カビ)が10%と言われています(複数の抗原に感作していることもあるため、合計は100%になりません)。
花粉症同様、春先に多いのですか?
冬季に症状が寛解することが多いのですが、症状が春のみにみられるわけではなく、一年中続くことが多いです。
何歳くらいで発症するのでしょうか?
多くは5歳位で発症し、10歳前後で症状がピークを迎え、15歳以降は症状が軽くなっていく、といわれています。しかし20歳以降でも強い症状を呈することがあります。
「増殖性変化」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
「眼瞼結膜の乳頭増殖」とは、特に上眼瞼結膜(上まぶたの裏)に多く見られる変化で、この部分全体の結膜が石垣のようにデコボコになってしまいます(図1を参照)。これが角膜表面をこすると、難治性の潰瘍(シールド潰瘍)が生じ、激しい疼痛をきたします(図2を参照)。また、「輪部結膜の膠様増殖」とは、角膜付近の結膜にみられる、堤防のような隆起のことです。これも異物感の原因となります。
図1 石垣状乳頭増殖 | 図2 シールド潰瘍 |
どのような治療を行うのでしょうか?
従来は抗アレルギー薬+ステロイド薬の点眼を行い、効きが悪く異物感が強い場合には抗アレルギー薬+ステロイド薬の内服を加えたり、ステロイドの結膜下注射や乳頭の外科的切除を行っていました。
しかし若年者が多いこの疾患の場合、高濃度のステロイドを長期間使用していると眼圧(眼球形状を保つための圧力)が大人に比べて高い確率で上昇することが知られており、このため視神経が圧迫されると緑内障(ステロイド緑内障)を呈し、治療を続けているうちに高度の視野欠損・視力低下をきたすことがあります。また、ステロイド点眼・内服だけでは十分症状が改善しない例もしばしばあります。こうした問題を解決するため、近年免疫抑制剤(水溶性シクロスポリン)点眼が開発され、ステロイド治療が効きにくい春季カタルの患者様の症状を劇的に改善させています。当科でもこのシクロスポリン点眼を導入し、春季カタルの患者様の治療に積極的に用いています。
コンタクトレンズが合わなくなり、病院に行ったら「円錐角膜」と言われました。これはどのような病気なのでしょうか?
角膜(黒目)の中央部が炎症を伴わずに突出して薄くなる疾患です(図を参照)。このため乱視が徐々に進行し、視力が低下します。男性に多く、何らかのアレルギー性疾患を合併していることが多いと言われています。
図 円錐角膜 |
原因は何なのでしょうか?
現在の所確たる原因は分かっていません。
何歳位にみられのでしょうか?
10~20歳代に多くみられ、徐々に進行しますが、30歳代で進行が停止することが多いといわれています。
通常のコンタクトレンズでは矯正は難しいのでしょうか?
初期の場合は通常のハードコンタクトレンズでも矯正できることが多いのですが、進行例では角膜の形状が通常のレンズの形とは大きく違ってくるため、角膜形状に合わせたハードコンタクトレンズの装用が必要になります。ハードコンタクトレンズは矯正視力の向上のみならず、円錐角膜そのものの進行を抑えることができるため、可能な限りハードコンタクトレンズを装用したほうがよいと考えられます。ソフトコンタクトレンズでは矯正困難なことが多いばかりでなく、円錐角膜の進行も抑制できないため、お勧めできません。
当科では、円錐角膜の患者様の角膜形状に合わせたテーラーメイドのハードコンタクトレンズを専門の担当者の元で作成することができ、患者様の装用感・矯正視力の向上に大きな効果をもたらしています。
ハードコンタクトレンズでの矯正が難しくなった場合は、どのような治療があるのでしょうか?
角膜移植術により、病的な角膜を正常な角膜に取り替える必要があります。他の角膜疾患に比べると、角膜移植による円錐角膜の透明治癒率は高いといわれていますが、拒絶反応等のリスクがあるため、コンタクトレンズで矯正可能なうちは手術をしない方がよいと考えられます。
近視矯正手術(LASIK)で視力を回復させることはできないのでしょうか?
LASIKはその術式上、角膜に十分な厚さがないと、術後その部分が突出する(角膜拡張症)ことがあります。すなわち、角膜に薄い部分がある円錐角膜は、LASIKの適応にはなりません。
生活するうえでは、どのようなことに気をつけたらよいでしょうか?
円錐角膜が進行し角膜中央が高度に薄くなると、何らかの外力でその部分が破れることがあり(急性水腫)、場合によっては角膜移植術が必要になることがあります。また、外力そのものが円錐角膜を悪化させるといわれています。このため、眼を頻繁にこすることは避けたほうがよいでしょう。
祖母が「眼が痛くて見えにくい。」と訴えたので病院に連れて行ったところ、「水疱性角膜症」の診断を受けました。どのような病気か教えてください。
角膜(黒目)の組織には他の組織同様、水分が含まれていますが、必要以上に水分が溜まってしまうと角膜が濁る原因となります。この水を汲み出すポンプの役割を果たしているのが「角膜内皮」であり、角膜の最も裏側に一層の膜として存在しています(図1)。
角膜内皮は皮膚の細胞のようには増殖せず、なんらかの原因で数が減ってしまっても自力で回復することがありません。正常の数(1平方ミリメートル辺り2500~3000個)からある程度減少してもポンプの機能は果たされますが、1平方ミリメートル辺り500個を下回るとポンプ機能が十分維持できなくなり、角膜に水が溜まってしまいます。
すなわち、水疱性角膜症では角膜内皮が高度に障害されているために、角膜に大量の水が溜まって濁りが生じている訳です(図2)。
図1 角膜の構造 | 図2 水疱性角膜症 |
どのようなものが原因となるのでしょうか?
特殊な遺伝性疾患の角膜疾患(Fuchs 角膜内皮ジストロフィ等)、元々角膜内皮が弱い眼に内眼手術(白内障手術・硝子体手術等)を行った場合、眼の中の炎症(ぶどう膜炎)が遷延した場合、等が原因となります。
痛みをとるためにはどのような治療があるのでしょうか?
角膜に必要以上に水が溜まっているのが原因ですので、この排泄を促す必要があります。具体的には、高張食塩水点眼・軟膏やソフトコンタクトレンズの装用を行います。
眼鏡で視力をあげることはできるのでしょうか?
浮腫が存在する限りは眼鏡での矯正視力の向上は困難ですので、まず浮腫を引かせる治療を行う必要があると考えられます。治療に用いるソフトコンタクトレンズそのものにも角膜乱視を軽減させる効果があるといわれています。
浮腫が引かない場合はどのような治療法があるのでしょうか?
先に挙げた治療によっても浮腫が軽減しない場合は、角膜内皮を正常なものに取り替えて水の排泄を促進する必要があるため、全層角膜移植術を行う必要があります。
「ドライアイ」は文字通り目が乾いてしまう病態で、原因は私たちの目を潤している涙にあります。涙は上まぶたの外側あたりにある「主涙腺」で作られ、まばたきの度に一定量の涙が送りこまれ目の表面を潤します。その後10%は蒸発し、90%の涙は目の内側にある小さな穴「涙点」へ、そこから「涙小管」、「鼻涙管」を通って「鼻腔」へ流れます。涙液はゴミやほこりを洗い流し細菌感染を防いでいるだけでなく、鮮明な像を見えるようにするため眼の表面を滑らかにする潤滑油の働きや、角膜に酸素や栄養を送る働きを持っています。このため涙の分泌量が減るだけでなく、涙のバランスが悪くなっただけでも様々な症状が出てきます。
ドライアイの症状は目の乾燥感ばかりでなく、充血、痛み、目の不快感、あるいは目の疲れなどとして現れます。近年特に、パソコンの普及やコンピュータ作業の長時間化、コンタクトレンズの装用者の増加などにともなって、ドライアイの患者さんは著しく増加しており日本におけるドライアイ人口は800万人以上ともいわれています。また、涙の量は年齢とともに減少することが知られています。高齢者では眼の縁に存在する「マイボーム腺」からの涙液(脂質)分泌の機能が低下している方も多く、また白目である結膜のたるみ(結膜弛緩)によって涙のバランスが悪くなり様々な症状が出てきます。このためテレビの観賞中や読書中、パソコンなどの作業中は、まばたきを意識的に増やしたり、目をあたためることでドライアイが改善することもあります。
ドライアイの初期治療は人工涙液の点眼が基本になりますが、人工涙液にもいくつかの種類があり、症状や重症度によって使い分けていますので医師にご相談ください。また、コンタクトレンズを装用されているかたは、レンズの種類によって使用できる点眼薬が異なる場合があるため医師にご相談ください。点眼のみでは症状が改善しない場合は、涙点プラグという治療法をお勧めしています。涙は涙腺で作られて、目の表面を覆ったのち涙小管という小さな穴から鼻にぬけていますが、涙点プラグとはこの涙の出口を小さなプラグで閉鎖することによって、目の表面を覆う涙の量を増やそうとする治療法です。涙点プラグは簡単な処置で痛みもなく、ほとんど副作用もないため、点眼だけでは充分な効果がでないケースでは、良い適応になります。その他、ドライアイ用眼鏡の処方が必要な場合、涙点閉鎖手術が必要な場合もありますが医師とよく御相談ください。
正常な眼表面 | ドライアイによる下方の角膜上皮障害 | 下方の角膜糸状物質 |
涙点プラグ挿入前 | 涙点プラグ挿入後 |
ものが歪んで見えるんですが?
変視症(へんししょう):網膜のゆがみからくる症状です。
網膜(もうまく)は、眼をカメラに例えればフィルムにあたる働きをしている薄い膜です。いくら上等なカメラを使っても、中のフィルムが傷んでいては、ちゃんとした写真は写せません。これと同じで、網膜がむくんだり、はがれていたり、変形があったりすると、網膜に写った像はゆがんだものとして感じられ、変視症(へんししょう)と呼ばれます。同時に視力が低下したり、視野に虫が食ったように見えない部分ができたりすることもあります。このような症状がでてきたら、網膜のど真ん中で一番大切な部分である、黄斑(おうはん)に病気があることがほとんどです。黄斑の病気はたくさんあり、眼科で眼底検査(がんていけんさ)など詳しい検査をして原因を調べ、治療しなければなりません。例として中心性漿液性網脈絡膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいもうみゃくらくまくしょう、図1)という病気があります。中年の男性に多く、黄斑の網膜が浮き上がるため、突然の視力低下、変視症が起こります。薬を飲んで数週間から数ヶ月でよくなることがほとんどですが、なおりが悪い場合はレーザー光線による網膜光凝固(もうまくひかりぎょうこ)で治療します。その他、黄斑浮腫(おうはんふしゅ、黄斑網膜のむくみ)、黄斑上膜(おうはんじょうまく、網膜の上に異常な膜ができて、網膜にしわがよってしまう)などの病気も変視症の原因となります。
図1 中心性漿液性網脈絡膜症。 矢印はまるく浮き上がった黄斑部網膜を示しています。 |
目の前にゴミのようなものが飛んで見えるのですが?
飛蚊症(ひぶんしょう)とよばれるものです。
目の前に異常な浮遊物が見えることがあり、飛蚊症と呼ばれます。目の動きとともにプカプカ舞い、色は白、黒、青など、形は虫のようだったり、輪っかみたい、髪の毛みたいなどと様々です。目玉の後ろ側はピンポン球のような空間になっており、その壁を内張りするように網膜がくっついています。内部には硝子体(しょうしたい)という透明なゼリー状のものがつまっています。飛蚊症は硝子体の中のにごりや出血が、網膜に写りこむことによって起こる症状です。硝子体との関係で生理的なものであってもゴミのように見えることもあります。飛蚊症を起こす病気もたくさんあり、治療の必要がないこともありますが、眼底検査をしないと原因は分かりません。特に、最近急に飛蚊症が出たときや、光視症(こうししょう、チカチカと光が眼前に見える症状)、視力低下、視野の異常を伴っている場合は、早く眼科を受診してください! 網膜裂孔(もうまくれっこう、網膜の裂け目)や網膜剥離(もうまくはくり、網膜のはがれ、図2)になっている可能性もあります。光凝固や手術をしないと失明に至ることもあります。その他硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)やぶどう膜炎(ぶどうまくえん、目の中の炎症)でも飛蚊症を起こします。これらもしっかり治療しないと怖い病気です。
図2 網膜剥離。矢印は網膜裂孔を示しています。 その周りの白っぽい部分が剥離した網膜です。 |
物を見るときに最も大切な働きをする部分を黄斑部といい、網膜の中心にあります。この黄斑部が正常に働くことで色や形の判別を行うことができ、良い視力を維持できます。加齢にともなってこの黄斑部に様々な異常が生じた状態を加齢黄斑変性といい、①萎縮型と②滲出型に分類できます。萎縮型は、長い時間かけてゆっくりと視力が低下していきます。滲出型は、網膜の下の脈絡膜に脈絡膜新生血管とよばれる異常な血管が発生して黄斑に出血や浮腫が生じて視力が低下します。出血によって急に視力が低下することもあります。
九州の久山町スタディでは、少なくとも1眼に加齢黄斑変性を有する人は50歳以上の人口の0.87%を占めていました。
60歳以上の方に多くみられます。また、男性は女性の約3倍の頻度でみられます。両眼に発症する方も約20%います。喫煙がリスクファクターと報告されています。compliment factor H 遺伝子多型でこの病気の罹りやすさとの関連を示す報告がされています。
脈絡膜新生血管が発生する原因として網膜色素上皮や網膜色素上皮に接するブルッフ膜の加齢変化が指摘されていますが、詳しい原因はわかっていません。
基本的には最も見ようとするところ(視野の中心)が見えにくくなります。初期には直線が波打ってみえたり、物がゆがんでみえたりします。また急に視力が低下する場合もあります。脈絡膜新生血管の大きさや位置さらに活動性によって、視力や見えにくい部分の範囲は変わってきます。
2種類の造影剤を用いた蛍光眼底造影検査(造影剤を注射し、眼底写真を撮影する検査)で脈絡膜新生血管の部位や大きさ、深さ、活動性などを判定します。また、網膜の断層を見る装置を用いて網膜と脈絡膜新生血管の位置関係や網膜の腫れの状態を評価します。
残念ながら萎縮型には治療法はありません。滲出型では脈絡膜新生血管の部位や大きさ、深さ、活動性によっていくつかの治療法があります。出血予防のための止血剤内服、発病予防のためのサプリメント摂取、レーザー光凝固、新生血管抜去術などがあります。最近は光線力学療法(光感受性物質とよばれる薬剤をあらかじめ腕から点滴し、脈絡膜新生血管に移行させ、そこにレーザーを照射する方法:PDTが主流です。
原則として進行性ですが、その進行度や重症度には個人差があります。
糖尿病網膜症は、糖尿病腎症・神経症とともに糖尿病の3大合併症のひとつで、我が国では成人の失明原因の第一位となっています。高血糖が長く続くと、血管を構成する細胞が障害され、血管は変形しつまりやすくなります。血管がつまると充分な酸素が網膜にいかず、新生血管を生じ酸素不足を補おうとします。新生血管は脆弱で容易に出血し、また増殖組織が発生し、これが原因で網膜剥離を起こすことがあります。
障害の程度によって非糖尿病性網膜症、単純、前増殖、増殖糖尿病性網膜症に分類され、通常は糖尿病発症から増殖糖尿病網膜症にいたるまでに数年以上かかるといわれています。
糖尿病ではあるが、眼底に何も異常を認めない状態です。
眼底に微小動脈瘤、出血、硬性もしくは軟性白斑などなんらかの異常を認めるものです。動脈瘤によって黄斑部にかかる網膜浮腫が出現した場合には治療の対象になることはありますが、この段階では原則として経過を見ます。血糖コントロールが良くなれば眼底所見が改善することもあります。
網膜の細動脈が閉塞し、網膜が虚血状態に陥り、次の増殖性網膜症へ移行する前段階です。軟性白斑が多発し始めます。網膜の循環状態を調べるため蛍光眼底造影検査を行い、虚血網膜に網膜光凝固術を行う必要があります。
新生血管が生じている段階です。新生血管は容易に破綻し、硝子体出血や網膜剥離を生じます。さらに末期には虹彩にまで新生血管が生じ緑内障を生じます。レーザー光線による光凝固を行いますが、進行する場合は硝子体手術や緑内障手術が必要となります。この時期になると血糖の状態にかかわらず、網膜症は進行します。失明のリスクが高くなります。
黄斑は物を見るために最も重要な部分です。黄斑付近に毛細血管瘤などが多発したり血液成分が染み出たりすることで黄斑にむくみを生じた状態が糖尿病黄斑症です。単純網膜症の段階でも起こることがあり視力が低下します。
かなり進行するまで自覚症状がない場合もあります。糖尿病の人は無症状でも定期的に眼科を受診し、眼底検査を受けるようにしましょう。
網膜光凝固術は、通常は通院でレーザーを用いて行います。網膜光凝固術は主に新生血管の発生を予防したり、すでに生じている新生血管を減らしたりすることを目的として行います。この治療は、網膜症の悪化を防ぐための治療であって、元の状態に戻すための治療ではありません。多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下します。レーザーの照射数や照射範囲は網膜症の進行度によって異なります。長期的な視力予後を考えると適切な時期に網膜光凝固術を受ける必要があります。
レーザー治療を行っても網膜症が進行してしまった場合や、すでに網膜剥離や硝子体出血が起こった場合に行われる治療です。通常は入院して治療します。眼球にあけた小さな穴を通して手術器具を眼内に挿入し、出血や増殖組織を除去したり、網膜剥離をなおしたりします。
前増殖糖尿病網膜症の段階で 網膜光凝固術を施行した。 黄斑症を合併している。 | 硝子体出血が生じており、 増殖糖尿病網膜症の段階である。 硝子体手術を施行した。 |
網膜に栄養を供給するために網膜には動脈と静脈が網目のように走っています。網膜静脈の血流が、何らかの原因で途絶えてしまう病気が網膜静脈閉塞症です。原因として硬化した動脈と交叉する静脈が圧迫を受けたり、血栓などがつまることが考えられています。
糖尿病、高血圧、血液疾患のある方におこりやすいといわれています。
血管の閉塞した場所などによって症状は異なりますが、目のかすみ・視力低下が主な症状です。眼底出血が生じ、これが黄斑に影響を及ぼすと極端に視力が低下します。また、黄斑がむくんで(黄斑浮腫)視力が下がる場合もあります。
網膜血管の血流や循環不全の状態を把握するために造影剤を用いた蛍光眼底造影検査を行います。また、黄斑浮腫の程度を評価するために網膜の断層をみる装置を用いて検査することもあります。全身疾患の状態を知るため、内科受診を勧める場合があります。
蛍光眼底造影検査の結果や黄斑浮腫の程度によって、止血薬・血流改善薬・抗血小板薬などの内服治療を行ったり、循環不全に陥った網膜にレーザーによる網膜光凝固を行ったりします。網膜光凝固を行う主な目的は、新生血管の発生を予防するためです。新生血管は難治性の緑内障を引き起こしたり、破裂して硝子体出血を来たしたりすることがあります。黄斑浮腫に対しては、ステロイドの眼局所注射を行うこともあります。症例によっては、循環を改善させ黄斑浮腫を軽減させる目的で硝子体手術も行われています。
下耳側静脈閉塞のため、著明な出血と黄斑浮腫を生じている。 |
網膜色素変性はどのような病気ですか?
網膜色素変性は、夜盲、視野狭窄、視力低下を主訴とする遺伝性の網膜変性疾患である。主症状は夜盲、視野狭窄、視力低下である。現座までに有効な治療法は未確立だが、遺伝子レベルでの原因が解明されている。海外ではビタミンAの大量療法が有効であるとの報告もある。
海外では5000人に1人、日本では、厚生省研究班の全国疫学調査では推定患者数は約23000人 (10万対18.7) と推定されている。
常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X染色体劣性遺伝のすべての遺伝形式をとる。
網膜色素変性患者で各遺伝形式の占める割合は
常染色体優性遺伝 | 17% (本邦) | 19% (海外) |
常染色体劣性遺伝 | 25% (本邦) | 19% (海外) |
X染色体劣性遺伝 | 2% (本邦) | 8% (海外) |
以上のことからもわかるように、遺伝形式が存在しない弧発例が多く存在する。
錐体ジストロフィ(または錐体-桿体ジストロフィ)はどのような病気ですか?
網膜色素変性は、桿体機能障害が先行し、次第に錐体機能障害も生じるために桿体-錐体ジストロフィと呼ばれるが、逆に錐体機能障害が先行する疾患を錐体ジストロフィまたは錐体-桿体ジストロフィと呼ばれる。遺伝形式は常染色体優性、常染色体劣性、X染色体劣性遺伝のすべての遺伝形式をとる。進行性の視力低下、色覚異常、昼盲、中心暗点を呈する。初期には暗順応機能は正常であることが多い。診断は錐体系ERG(photopic ERG, 30Hz flicker ERG)の振幅の異常が桿体系ERGの異常に先行し、高度である。また眼底検査では、標的黄斑症、脈絡膜血管萎縮、びまん性色素塊などを呈する。後期になると周辺部網膜の変性も伴うことがある。また眼底検査ではまったく異常が認められない症例も存在する。眼底所見よりERG異常を主体する視機能異常の特徴を基準として診断される疾患である。
黄斑ジストロフィとはどのような病気ですか?
黄斑部は網膜のほぼ中心にあり、錐体細胞が多く分布しています。錐体細胞は、主に明るいところで物をみたり、色を感じたりするのに役立っています。黄斑ジストロフィは、黄斑部に遺伝的に変性が起きる病気です。この病気は、ベスト病、スターガルト病などいくつかの病気が原因になっています。
物をみていると真ん中が薄暗くなって見えにくくなったり、ゆがんで見えたりします。また、色の見え方も正常とは異なって見えるようになることもあります。程度や進行は原因となる病気によって異なります。
原因となる病気によって異なります。たとえば、ベスト病は常染色体優性遺伝、スターガルト病は常染色体劣性遺伝で遺伝すると考えられています。
遺伝により黄斑部に変性(病気)を来たします。 |
網膜分離症とはどのような病気ですか?
網膜は1枚の膜ですが、網膜が外層と内層に分離する病気です。ほとんどの患者様は男性で、1~5歳頃に病気が見つかります。ほとんどの場合に両眼に発症します。
20歳ころまで視力が徐々に低下し、20歳頃には(0.1)程度になっていることが多いようです。網膜の周辺部が分離し、網膜の血管が切れてしまう場合には、硝子体出血が起こることもあります。また網膜剥離が合併することもあり、この場合には手術をしますが、通常はこの病気は経過観察します。
X染色体劣性遺伝で遺伝すると考えられています。
目の病気というと、「白内障」という病気をよく耳にします。
「白内障」と「緑内障」はどう違うのですか?
目はカメラに例えるとレンズに当たる水晶体というものがあります。白内障は透明なレンズである水晶体が濁り、物が霞んで見え、視力が衰える病気です。老人性のものが最も多いですが、糖尿病や外傷、ステロイド使用に伴ったものもあります。緑内障と違い自覚症状がはっきりしており、一般的に手術によって視力回復が望めます。緑内障は視神経が眼圧の上昇などで圧迫され「視神経乳頭陥凹」が出現し、徐々にそれに一致して「視野が欠ける」「狭くなる」などの症状がおこります。一度完全に障害された部分は元には戻りません。
緑内障には自覚症状がありますか?
緑内障は、慢性のものと急性のものがあり、自覚症状の現れ方が異なります。急性緑内障では隅角という房水(眼の中の水)が流れ出る部分が狭くなり、「緑内障発作」と言われる急激な眼圧の上昇が引き起こされ、「頭痛」や「吐き気」、「目の痛み」などが出現します。症状から脳外科や内科を受診されることもあります。
開放隅角緑内障と呼ばれる慢性の場合、初期の自覚症状は通常あまりありません。そのため、緑内障が進行してから受診されることもあります。
正常眼圧緑内障という言葉を聞きました。「正常眼圧」なのに緑内障なのでしょうか?
緑内障は、眼内の水圧である眼圧が高いために視神経が圧迫されて萎縮し、そのそれに一致して「視野が欠ける」「狭くなる」などの症状がおこる病気です。眼圧の正常値は、健康人を対象とした調査に基づいて統計的に求められた値であり、眼圧がこの範囲にあるからといって個々人の視神経にダメージを受けないとは言えません。正常眼圧緑内障は、緑内障のなかの開放隅角緑内障のタイプに属しますが、眼圧が正常範囲(10~21mmHg)にあるにもかかわらず、眼圧が高い緑内障と同じような症状をきたす病態です。正常眼圧緑内障は、近年の疫学調査(多治見スタディ)で有病率が非常に高い(3.6%)ことが明らかになり、日本人に多く注目されている病気です。
緑内障の治療にはどんなものがあるのですか?
まず初めは点眼薬による治療が行われます。眼圧下降効果は房水(眼の中の水)産生抑制と房水流出促進によって得られます。1種類から開始し、多くて作用機序の違う3種類位まで使われます。加えて内服薬による治療が行われることもありますが、長期で使用するのは副作用の点などから難しいです。レーザーによる線維柱帯形成術が行われることもありますが、濾過手術ほど眼圧は下がりません。それでも進行が阻止できない場合に手術となります。手術としては線維柱帯切開術や線維柱帯切除術(濾過手術)などがあります。 残念ながら一度緑内障により失われた視野は、もと通りに回復することはできませんので、早期発見・早期治療が大事です。
[視野欠損]
正常 | 中等度進行 | 進行 |
ぶどう膜炎ってなんですか?
ぶどう膜炎はぶどう膜と呼ばれる眼の中組織が中心になって炎症を起こした状態です。ぶどう膜とは、虹彩・毛様体・脈絡膜をあわせた呼び方で、その色調や硝子体を袋状に包んでいる形が果実のブドウに似ていることからこの呼び名となっている色素と血管の豊富な膜です。写真1は皿の上に置いたぶどうですが、眼の外側の白い部分を剥くとこのような黒い組織に覆われています。
ぶどう膜の特徴の第一は、眼球のほかの部分に比べて血管が多いということです。このことは、ぶどう膜炎の特徴にも関係してきます。つまり、炎症の原因がぶどう膜そのものにある場合だけでなく、血液の流れと関係して膠原病等の全身のほかの臓器に起こった炎症に伴って、ぶどう膜炎が起こるということです。もう一つの特徴は、ぶどう膜は網膜〈もうまく〉とほぼ全面で接しているので、そこに炎症が起こると網膜に影響を与えやすいということです。
網膜は、瞳孔〈どうこう〉から入った光を感知する、カメラのフィルムに該当する組織ですから、その感度が悪くなると、視力が低下します。
ぶどう膜炎の原因はなんですか?
ぶどう膜炎はいろいろなタイプが存在します。人種や住んでいる地域によりそれぞれの頻度が大きく異なることが知られており、その背景に遺伝的要因と環境因子が複雑に絡みあっていることが考えられています。ベーチェット病、サルコイドーシス、原田病は日本で三大ぶどう膜炎と呼ばれる頻度の高いものです。これらは難病ではありますが、さまざまな検査から診断がつけば、治療方針を立てることができます。ほかにも、膠原病、関節炎、腸疾患、皮膚疾患、脳神経疾患、耳鼻科疾患、糖尿病、あるいは血液疾患や悪性腫瘍などがぶどう膜炎の原因になっていることもあります。また、血液の抗体検査や眼内液を検査して、初めてウイルスや細菌、その他の病原体の感染が原因であることがわかる場合もあります。いろいろ調べても、ぶどう膜炎のタイプを分類できない場合も3~4割あります。
どんな症状がありますか?
視力の低下、飛蚊〈ひぶん〉症、充血、眼痛といったものが中心ですが、ぶどう膜炎では、炎症の部位や程度、合併症によって、さまざまな症状が出現します。片眼だけにも両眼にも起こりえます。
どんな症状でも遠慮なくお話下さい。ぶどう膜外来では、症状に応じた病気との関係を詳しく説明しています。写真は眼内の炎症が強く角膜裏面に炎症細胞がたくさん付着した状態です。
検査はどんなことをするのですか?
一度ぶどう膜炎を発症するとさまざまな組織の障害を発症することがあり、視力検査などの眼科一般検査以外に最新の機器を使用した検査や遺伝子解析、血液検査、他科受信で全身検査などをしていただく場合があります。
治療法はありますか?
内科的な治療がおおい特徴があります。点眼以外に内服薬もよく用いられます。これらはぶどう膜炎の病態が眼に炎症を起こすことであるために、抗炎症剤が中心ですが副腎皮質〈ふくじんひしつ〉で作られ、炎症を抑える作用がステロイドと呼ばれるものを使用することもあります。また、体の炎症を起こす力を弱めるために免疫抑制剤とよばれるものも使用することがありますが、定期的な薬の副作用の検査も必要になります。
斜視とはどんな状態のことですか? また斜位と斜視の違いを教えてください。
多くの人では、物を見つめるときに両方の眼の視線が真っ直ぐ前を向いています。これを眼科用語では正位と言います。
斜位は、物を見つめている時には両方の眼のの視線が真っ直ぐ前を向いていますが、ぼうっと見ている時や片方の眼をふさいだ時には視線が内側や外側を向く状態のことです。軽度な斜位は正常範囲に入ります。
斜視は、いつも片眼の視線が内側や外側を向いている状態です。斜位では両方の眼で1つの物を見ること(両眼視)ができますが、斜視ではこれができません。
子供が内斜視のようですが、病院に行ったほうがいいですか?
片方の眼が常に内側を向いているように見える場合は内斜視の可能性があります。斜視のように見えても、本当は斜視ではない、偽斜視といわれるものもあります。まぶたの形の影響で内斜視のように見えるもので、指で眼元の皮膚をつまんでみると、斜視でないことがわかります。もっと簡単な判別法は、写真などで光を眼に当てた時の角膜(くろめ)の反射の位置を見ることです。両眼の角膜の中央に光の反射があれば、斜視ではなく、片方だけが中央よりも外側に反射があれば、内斜視です。ただし、この判定法は光の方をしっかり見ているということが条件ですので、よくわからなければ、やはり眼科を受診されることをおすすめします。
眼にも骨があるのですか?骨折するとどうなるのですか?
眼球そのものには骨はありませんが、眼の周りには眼窩骨という骨があり、眼球を包むような形になっています。眼を強く打って眼窩骨に骨折が生じると、骨の裂け目に眼球の周りの脂肪や筋肉がはまり込んでしまいます。
眼球を上下へ動かす筋肉がはまり込んでしまうと眼球を上にむけたり、下にむけたりすることが困難になります。程度の軽いものは自然治癒することが多いので、経過観察しますが、程度の強いものでは手術をした方が良い場合もあります。
偏頭痛について教えてください。
とくに誘因のようなものはなく、視野の一部がゆらゆらと揺れて閃光のようなものが光って、ギザギザの光の波が広がり、光の内側が真っ暗に見えます。これを閃輝暗点といいます。この光と暗点は、数分から数十分で消えます。このあとに頭痛が2~3時間続き、吐き気、嘔吐などが起こることがあります。人によっては手足が動きにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。視野が狭くなることもあります。
このような発作を時々繰り返しますが、発作回数は月に数回の人から数年に1回程度の人まで様々です。
頭の中の血管が一時的に痙攣して、脳の中の物を見るための部分に流れるはずの血液が一時的に足りなくなって起こるのではないかといわれていますが、この原因は分かっていません。動脈硬化や脳腫瘍があるためにとくに起こりやすいということはありません。また、偏頭痛がたびたび起こるからといって他の病気になる心配もまずありません。
長い年月を経過するうちに、次第に発作回数が減ってゆくことが多いようです。現在は発作を予防する薬が使用されるようになっています。