研究内容

神経保護グループ

緑内障は網膜神経節細胞が徐々に死滅していく加齢性眼疾患であり、現在、我が国における中途失明原因の第一位を占めています。その現状を踏まえ、神経保護グループでは、緑内障の予防、早期発見、治療、予後管理を対象とした包括的な臨床研究に加え、緑内障の病態解明を目的とした基礎研究を行っています。これらの研究によって得られた知見を臨床にフィードバックし、「失明ゼロ」社会の実現を目指しています。

1. 緑内障治療を目指した薬剤スクリーニング

マウス網膜初代培養細胞及びiPS由来網膜神経節細胞によるin vitro実験系を用い、神経保護に有効な自然素材、既存薬、機能性物質などの大規模スクリーニングを実施している。また、in vitroスクリーニングでヒットした物質については、緑内障モデルを用いた動物レベルで、その効果を検証している。

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2.網膜神経節細胞死のin vivoイメージング法の開発と緑内障の病態解明への応用

最小限の侵襲により、高感度かつ経時的に生体内での網膜神経節細胞死をモニター可能な実験ツールの開発を進めています。各種緑内障モデルと組み合わせることで、in vivoレベルで簡便に緑内障の病態改善に有用な薬剤候補の評価を行うことが可能となり、新薬開発に役立つと期待されています。

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3. ヒト検体を用いた緑内障バイオマーカー探索

緑内障あるいはコントロール患者由来の生体試料を解析し、緑内障診断や重篤度判定に有用な指標(バイオマーカー)を探索しています。信頼性の高いマーカーを見出すことにより、将来的には、血液検査や尿検査のみで緑内障診断が可能になると期待されています。

4. ゲノム解析による緑内障発症の遺伝的基盤の解明

個々人のゲノム情報と緑内障発症率、重篤度及び薬剤反応性との相関性を見出し、疾患予防や診断精度・治療効果の向上を目指した個別化医療を実現します。

5.緑内障手術後、組織瘢痕化をもたらすメカニズムの解明

緑内障手術後、眼圧コントロールが不良となる予後不良群が存在し、その原因として組織の瘢痕化が挙げられます。そこで、緑内障手術を施行された患者から眼組織および前房水を採取・解析し、瘢痕反応に関連する分子メカニズムを明らかにすることで、予後不良群の減少を目指します。

応用遺伝子学・網膜グループ

1. 遺伝子治療による視覚再建

当科では、遺伝子治療の開発に向けた基礎研究も行っています。一般的に遺伝子治療は、異常な遺伝子によって機能不全をおこしている細胞に、外から正常に働く遺伝子を導入することで治療する手法です。そこで我々は網膜色素変性症に対する遺伝子補充療法の開発に向けた研究を行っています。網膜色素変性症は視細胞の変性により進行性の視覚異常をきたす、難治の遺伝性網膜疾患です。そこで、正常に働く遺伝子を補充することで治療することを目指しています。また、遺伝子工学の世界では、細胞に遺伝子を導入することで、細胞自体の機能を変えることも一般に行われています。我々は、外部から遺伝子を導入することで、網膜の特定の細胞の機能を付与できないかと考えております。すなわち、失われた細胞と同様の機能を別の細胞に獲得させることで視覚の再建ができるのではと考えています。

2. 視覚脳科学

視覚再建のためには、視覚路のメカニズムを理解することが必要です。そこで我々は神経科学的アプローチにより解明することを目指しています。視細胞から脳に至る視覚の神経回路を、分子生物学、行動学、電気生理学的手法を用いて、視覚の発生・可塑性について解析しています。

3.新規眼内灌流液開発に向けた基礎的研究と実用化

私たちは、前房水や硝子体液の解析を行い、その中に活性イオウ分子種が存在することと、その強力な抗酸化能を明らかにしました。これをもとに活性イオウ分子種の優れた抗酸化能力を生かした新規眼内灌流液の開発を進めています。

4.抗網膜抗体の測定

網膜色素変性症と抗網膜抗体(自己抗体)との関わりを解析するため、患者さんの血液から抗網膜抗体の検出・測定を行っています。

iPS細胞グループ

iPS細胞由来網膜細胞の研究

当科ではiPS細胞を用いて、網膜組織に分化誘導することにより難治性網膜疾患及び視神経疾患の病態解明を目指しています。これまで倫理的な側面から評価が難しかったヒト網膜組織で研究を行うことで、ヒトに対して効果的な新規の薬剤や治療法の開発へとつなげる研究を行っています。

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